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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)866号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告理由第一点について。

原審が挙示の証拠により是認した第一審判決の主文には、本件山林の境界は同判決添付図面一のR4ないしR9およびD4’を結ぶ線であるとの趣旨の、所論のような表示がなされているところ、原審挙示の証拠には、右主文中の「七〇度」「六間七」「三百三十二度三」という表示にそうものが存在しないことは所論のとおりであるが、反訴状付表と対比すれば、右三箇所の数字は、それぞれ、「七度」(70でなく7<略>)「六間三」「三二二度三〇分」(.30でなく.30’)の誤記と認められないこともない。しかし、これが更正決定によりうる明白な誤記として上告理由とならない瑕疵であるか否かについては、後記第二点説示の理由により原判決が破棄され、本件が差し戻されて、新たに正確な表示の判決主文が言い渡されるべきものである以上、判断の必要がない。

同第二点について。

原判決の是認した第一審判決主文(同添付図面一を含む)に表示する上告人(原告)所有の両山林(判示一一二六番、一一二七番)と被上告人(被告)所有の両山林(判示一一二八番、一一二九番)との境界は、要するに同図面一の如くD4’、R9、R8、R7、R6、R5、R4の各地点を判示の方位、角度、距離において結ぶ線上にあることを確定するというのであるが、第一、二審判決の説示および右添付図面の記載によつても、判示R9からR4に至る各点殊に基点D4’が前記山林現地のいずれの地点を指すものであるかを知るべき手掛りは第一、二審判決(添付図面を含む)上全く存しない。〔上告人と被上告人とが各所有する右両山林が相隣接しそのR5からR4に至る線の部分が両者の境界線であることや基点がD4’点であることについては当事者間に争はないが、この争のないのは現地のいずれの点、線であるかは知るに由がない。このことは第一点で指摘した角度、距離に誤があるとみると否とに拘わりはない。第一、二審各検証見取図の各0点は右D4’点に相当すると解され、同点附近に柿の切株があるとされているが、同点と同切株との角度、距離は示されていない。また、右第二審検証結果ではA点(R5)、K点(R7)、N点(R10と解される)に仮処分の立札が立つていることが認められているが、仮処分の立札は土地境界線を確定表示するための拠点として利用しうべき地物もしくは恒久性営造物とはいい難い。右基点に標石を埋設させ、あるいは右諸点のうちのいずれか一点だけでも地物によつて明確にする方途も判決上採られた形跡がない。また、前記判決添付図面は側線と境界線とを区別していないため表示があいまいであるのみならず、本件一一二七番山林の所在を示していない。〕すなわち本件境界線の判示は判決書上不定不明確で主文不明確の違法あるものというほかない。されば論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて民訴四〇七条一項に従い裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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